AMUSE 1月27日号
人生は自分探しの旅。その旅を上手に手助けしてくれるのが専門図書館です。
 自分にとっての「テーマ」をみつける。そのテーマを深く掘り下げていく。よりよい人生が、そこからスタートする。…久恒さんの持論である。「僕の生まれた大分県には、万葉の歌碑がたくさんあります。僕の母は、娘時代から短歌を作っていたんですが、60歳になった時、それらの碑を図書館で調べて、地元の雑誌で『万葉の庶民の歌』という連載を始め、10年かけて出版したんです。生活の中ではいろいろと苦労もあったんでしょうが、自分の趣味である短歌に関わっている時は、大きな安らぎを見つけていたんじゃないでしょうか」
 お母さんが資料を探すのに使ったのが専門図書館だった。てもとに資料がない場合は、東京にいた久恒さんに「代わりに○○図書館に行ってこれを調べてきて欲しい」という電話がかかってきたそうだ。
 自分の身の回りからテーマを見つけ、探求していったお母さんは、いつしか短歌のスペシャリスト。生き生きした姿が目に浮かぶようだ。
 現在、仙台の宮城大学で教授を務める久恒さん自身も専門分野を掘り下げることで、第二の人生をスタートさせた。
 かつて日本空港に勤務していた頃、実感したのは「何かのスペシャリストになることはそれほど難しいことではない」ということ。
 「深く掘り下げるのは人より一歩だけ進んでから、でいいんです」  たとえば、ロンドン勤務時代「日本的経営」という視点でレポートを書き、それが社内で注目を集めた。  広報の後に配属された経営革新を任とする親切部署では、サービスの向上によって売上が伸びることを発見、証明し、さらに一歩抜きん出た。そういった独自の発想から、大学教授に転進という新しい人生が開けたのだ。
 「まずは足元を見る。自分の仕事や趣味を追求していくと、自然と専門化になれるんです。そのとき、うまく役立つのは、専門家なんです」  久恒さんの場合は、仕事柄、航空図書館によく通ったそうだ。
専門図書館を使って、自分史を書いてみよう
「人生は自分探しの旅であり、同時に自分のテーマ探しでもあるんです」
 自分のテーマを見つけるには、まず自分史を書くことが近道だと、久恒さんは力説する。「テーマを発掘するというのは、それまでの自分を発掘することなんですね。未来は自分の過去にあるわけですから」  今までの人生において、自分が好きだったこと、趣味を持ったこと、また得意だったことの延長上に、未来があるという考え方だ。
 「人生にテーマがあって、それにしたがって生きている人のほうが豊かだし、成功していると思うんです。しかもそれを文章にしている人は『自分の作品』が残るわけですから。まずは自分の得意分野、テーマを発掘する、そしてそれを自分なりに文章にしてみることが最初のステップになるんです」
 自分史を書くにあたって、強力なサポーターとなるのが、専門図書館ではないだろうか。過去を振り返ると、自分が生きてきた時代背景を調べることも多い。
 昔起こったさまざまな出来事を自分との関係で調べていけば、それぞれの専門分野に首を突っ込むこともある。子供の頃におこった大きな事件を調べる必要だって出てくるかも知れない。  そんな時には、たとえば図書館で昔の新聞をめくることになるだろう。 「自分史を書くのなら、なるべく早いうちに」と久恒さんは語る。人生、転機は何度かやってくるはずだ、と。
 「自分史といえば、リタイアして時間ができてから書く、というイメージがありますが、僕は授業で若い学生たちにも書かせています(笑)。何かをしたい、と思ったときに年齢は関係ありません。ぜひ今からでも自分史を書いて、自分だけの専門分野を突き詰めていって欲しいですね」
 専門図書館活用の第一歩は、自分を振る返るという身近なところにもあるのかもしれない。
発酵:毎日新聞社

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