キャリア開発史

私の一冊「男のためのやせる本」

私の一冊・久恒啓一(スタッフ)
「男のためのやせる本 岩城宏之著 ― つねに雄々しく戦いつづけよう」

 私の体重は目下60キロである。ここ4年間大筋において変化はない。これは、指揮者の岩城宏之氏のおかげなのだ。就職後徐々に太り始めた私は、本屋の店頭で面白い本を見つけた。「男のためのやせる本――つねに雄々しく戦いつづけよう」(岩城宏之)がそれである。
 私は大学時代は、探検部というクラブに入っていた。3年生の時にキャプテンに選ばれたのは、ひとえに私が大飯ぐらいだったからだ。胃腸の丈夫な人はエネルギーの大量蓄積が可能であり、したがってタフだからだ。当時の私の自慢は、@早メシである。(歯で食物をかむという習慣がないため普通の人の2〜3倍のスピード)A大食いである。(1回に 4合の米を食べたこともある)B腹をこわしたことがない、ということだった。学生時代は、山や鍾乳洞へよく出かけていたし体を動かしていたので比較的やせていた。
 就職するということは、金が自由になり食べたいものを腹一杯たべられるということであり、したがって私は毎年のように体重が増えていた。その頃である、この革命的な本に出合ったのは。 「お愛想、へつらい、ハッタリ、酒、ホステス」、「どうしても男の30才は太る危険信号の出る時期だ。」「精神の緊張がゆるむからだろうか。」  時あたかも20代の後半に突入していた私は、太った岩城氏の腕で頭をガツンとなぐられた気がしたものだ。
 「主食以外のものを先に食べ、足りない分だけメシを食う。」「肉はとり肉」「ライスを3分の1残す習慣」「酒は低カロリーのウイスキー」「つまみはとらない」「飲む日は朝食を控えめに」「理想体重より1キロ落としておけ」「10日に1度、ハメをはずす日を決める」「要は、胃袋に『むかしの感覚』を思いださせないことだ。」
 これらを翌日から実行した結果、3キロはやせた。しかし、この本は単にやせるための技術の紹介にとどまらない。真髄は、精神のぜい肉落とし論だろう。
 17キロの減量に成功した氏は言う。
 「一筋に没頭するものをもっている男に中年太りは無縁」「武人は太っていない」「挫折した時、恋が終った時に太りだす。」
 氏は更に生きがい論にまで言及する。
 「サラリーマンのくり言に同情はできない。」「生きがいというものは、目前の仕事を自分にとってやりがいのあるものに変えようという実に個人的な努力から生まれるはず」、更に調子にのった彼はやせた効用を語る。
 「減食でほんとうの味を知る」「節食をすると頭がさえてくる」「視野が広くなる」「神経が鋭敏になる」「ゆとりができる」「オシャレに気をまわさなくなる」
 音楽を解しない私は、氏の指揮棒をふる姿はみたことがないが、「違いのわかる男」とかでコーヒーをブラックで飲んでいる姿や、「すばらしき仲間たち」で、赤いシャツにラフにブレザーを着こんだ男前のあがった岩城氏をテレビでみかけることが多くなった。
 この本を手にした頃からだったろうか、「勉強したい」と本格的に思いだしたのは。文章を書いたり仲間と研究会をひらいたり、その後の私は太っていた時よりずっと知的になったようだ。
 この本は、油断するとすぐに太ってしまう自分にブレーキをかけるという大きな効用があるが、更に、豊かな社会に突入した日本の若い世代の一員である私に、水ぶくれのした精神を拒否させるという点においても圧力をかけている。「餓鬼のごとき食欲を、自分の意思の力で支配することが必要」と彼も言っているが、自分の欲望を自分の意思でコ ントロールできなければ、“たたかう男”の資格はないのだろう。
 今まで述べたようなことを、暴飲暴食をしながらかなりの量の友人に語ってきたような気がする。人に語るたびに、意識の薄れた頭にカツを入れるのが習慣となってしまった。「禁煙なんて簡単だよ、ボクはもう何百回もやっている。」とほざく輩と同様私も機会のあるごとに、自分を戒めている。しかしながら、意思が極めて簿弱なためこの決心もながくは続かない。
 「言葉は非常に意欲的、でも実はぐうたら」これは新婚早々の妻の亭主評である。
 「あれほど人に説教する意欲にあふれた勉強家然とした人が、家では、ナイターをみながらゴロゴロしている。ホントに不思議。」
 しかしひるんではいけない。あくまでも充実した人生をおくるために、やせた体をめざすのだ。あのクーベルタン男爵も言っているではないか。 オリンピックは、勝つことではなく参加することに意義がある。」と。全国の意欲的ぐうたら人間よ、連帯せよ。

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