メディア

奇妙な肩書き

奇妙な肩書き

 ひょんなことから犬を飼うことになった。「犬を飼ってはいけない」という規則のある宿舎住まいだったので、ひっそりと隠しながら飼っていたのだが、密告者があり宿舎を出なくてはならなくなった。犬を室内で飼っていいという貸家はなかなか見つからなかったが、団地に立った一軒だけあり、選択の余地無く住まざるを得なくなった。その家が古くそして寒かったこともあって、その半年後には家を買う羽目に陥った。十二万円で買った犬のおかげで、人生で一番大きな買物をしたことになる。

(中略)

 よく見ると犬の散歩をする人のいかに多いことか。「ちょこらちゃんのパパ」という奇妙な肩書きも増えたし、今までまったく知らなかった社交の世界が広がっていたことに驚いた。

(中略)

 飼い始めて二年ほど経った頃、娘から「お父さん、人間度がアップしたね!」と言われて苦笑したことがある。そういえば散歩を覚えたこともあり、景色や自然の移り変わりにも少しは気がつくようになった気もする。犬との生活には自分の内延が広がっていくという不思議な感じがある。この調子で行くと私もいずれは、ちょこらとキスをするようになるかもしれないという悪い予感(?)もある。いや、新しい自分と出会う「楽しみ」とでも言おうか・・・。
 犬のいる生活ももう五年になった。

2005.9
知研フォーラム284号
キャリア開発史 久恒啓一の紹介