平成11年9月号
事例紹介2
事業構想学部の学生像

1. 事業構想学部

 宮城大学設立の目的は非常にショッキングなことが書いてある。野田一夫学長が1997年の開学時に発表したものだ。「旧来の大学のイメージ」という部分を記してみよう。
 「老朽化した建物、時代遅れの設備、清掃と手入れの行き届かないキャンパス、乏しい上に配分方法の不条理な研究費、まともな研究業績のないものが大勢を占める教授会、観念的思考に逃避し現実を直視しない傾向、知的好奇心の欠如からアルバイトや遊びに熱中する学生、向上心の学生と教育的情熱のない教員とがかもし出す教室のダルな雰囲気、能率ともサービスとも無縁な事務サービス、横行する不毛な学内政治、陰湿な人間関係…」。旧来型のこのような大学からの決別が建学の一つの理念である。
 現在の日本には着想やアイディアに優れた人、また反対に細かい具体的な計画を立てることの出来る人、こういう人材は決して少なくない。しかし着想を計画に落とし込むプロデューサーやプロジェクトデザイナーと呼ばれる人材となると政治・経済・産業などあらゆるセクターで乏しいのが現状だ。
 こういった人材の育成こそが、日本再浮上の為の喫緊の課題である。宮城大学事業構想学部設立の目的は、ここにある。

2. 学生はどう育っているか

 「事業を起こせ」という学長、教員の声は学生に確実にこだまをおこしている。2002年に宮城県でも行われるワールドカップ用の県のホームページの運営を正式に受託するチーム、ホームページ作成技術と行動力を売り物に著名なホテルや大学教員からホームページの作成・運営を受諾するチーム、地域起こしや空港活性化をテーマとして様々なイベントに関わるチーム、新入生対象にパソコン講座を開きアフターサービスつきでパソコンの購入のアドバイスを事業化するチーム、県の情報政策課と組んで県の事業である「宮城情報天才・異才塾」で県内の小中学生向けのインターネット講座を運営受託して収益を挙げるチーム、大学の施設を使って市民対象のパソコン講座やアートマネジメントの講座を開催し収益をあげるチーム、チャイナドレスの輸入販売の事業家に挑戦する留学生を含むチーム、母国でのコンピュータ事業の開業を目指して着々と準備を重ねる留学生、学内広報委員会を組織し出版にまで業務の拡大を目指すチーム、県内の町村の観光開発や地域起こしに教員と一緒になって取り組むチーム、すばらしいキャンパスを自らの力で維持しようと結成されトイレ掃除や清掃を受け持つ現在二年生中心のキャンパスレンジャーチーム、学内に潤いを与えるため花いっぱい運動を繰り広げキャンパス環境を向上させようとするガーデンキャンパス構想を推進する現一年生のチーム、大学周辺の住宅地と住民を対象とした現代版御用聞きサービスを始めようと準備しているチームなど様々な動きが出て来ている。
 この動きは、かなりのケースが県や市町村といった行政や地域と組んだ仕事が多いことが特徴である。最初の卒業生が出る2001年三月には、授業のみならずこうした事業に関わりながら地域の課題に精通した学生が世の中に出てくることが期待される。県立大学として県や市町村の課題と向き合いながら育っていく学生が多く輩出していくならば、設置した県や県民から評価を受けるはずである。教員は行政の様々な審議会や委員会などに関わりながら、学生を社会・地域に連れ出す役目を果たしている。
 大学への来訪者が驚くのは、キャンパスのハード面のすばらしさ、美しさ以上に、学内のいたるところで「こんにちは」、「おはようございます」と学生から声をかけられることだという。理念である「ホスピタリティ・アメニティ」に賛同している学生が多いことの証左であろう。

3. 時代と共に

 三井物産総合情報室長であり、中央論壇で活躍する寺島実郎氏、アスキー創業者の西和彦氏など多彩な客員教授が選任教員並みの意欲と情熱で講義を行っており、学生の評判もすこぶる良い。また、中央官庁と組んだ講義を開いていることも特徴の一つだろうか。平静11年度は郵政省の通信政策課を窓口に「情報通信政策持論」を産業界にも開放して行った。
 「二十一世紀の新しい公立大学モデル」を作り出すことを目標に今後も教員・職員・学生をあげて邁進していきたい。

(学生部長 久恒啓一)

文部時報

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