99・8・7
自分史のすすめ◆仙台の創意工夫(3)

その人の人生設計と地域の将来像を描く

 仙台で生まれた自分史作成ソフト「自分傳説」(発売元・能開生涯学習研究所TEL022・275・6401)の共同製作者である能開生涯学習研究所の沼川芳夫社長がソフト開発を思い立ったのは、「亡くなった親父の年齢に自分が近づいてきて、親父の人生がどんなものであったかをまったくイメージできなかったショック」からだった。
 沼田さんが亡くなった父の人生をまったくイメージできないのと同じように、沼田さんの子どもたちも、沼田さんの人生をほとんど知らないだろうという事実にも気がつかされた。学生時代には「早稲田文芸」の編集長も務め、それなりに自分探しはやってきたと思っていただけに余計にショックだったようだ。
 それに塾経営者としての思いが重なる。文章指導の塾を25年ほど経営しているが、最近の子どもたちは、自分の課題や将来への道を探る方法を知らない。そもそもどう考えればよいのか考え方を知らない。だから他人を理解する力も乏しい。
 「だからこそ目先の現実や感覚だけで処理しようとする。それは文章に端的に出てきます。子どもたちを導くべき親たちも、学歴一本の発想できているので、子どもたちの課題を処理したり、アプローチの仕方を教えることができないようなのです」

自分史で練る将来戦略
 沼田さんにも、共同製作者である久恒啓一・宮城大学教授にも共通するのは、「自分史を人生の将来戦略を練るために書こう」という思いである。それは、「未来は過去からやってくる、という言葉があるように、今まで生きてきたプロセスを振り返り、人生の棚卸しをしながら、これからどう生きていくかの方向を探るもの」(沼田さん)だ。
 と同時に、一連の作業は、自分が生きてきた地域を描くことでもあるという点でも二人の意見は一致している。これまでにない一般の人たちの立場から綴られた歴史は、地域の成り立ちや将来の方向性を明らかにする。 自分史で地域振興
 沼田さんは、「宮城は地域振興に熱心で、宮城大学にも日本で初めてのベンチャー育成を目的にした事業構想学部がつくられました。こうした動きをもっともわかりやすく、人ひとりの取組みへと転換していけるのが自分史だと思うのです。地域振興、経済復興は自分史から始まると私は思います」と熱がこもる。
 そのために久恒教授や学生の助力を得て、宮城大学のインターネット・ホームページに、「自分史ライブラリー」を開設することが検討されている。久恒教授は、「少し話は大げさになるけれど、日本という国のライフデザインを描くことにもなるのじゃないかな。自分史にはそれぐらいのパワーがある」という。
 久恒教授の知的生産技術の講義を受講して自分史をまとめた韓国人留学生は、次のような感想を書いている。「過去と同時に、現在の自分をもとらえ直すことが日韓の架け橋になるためには大切なのですね」。 (了)
週刊ダイヤモンド

BACK